「世界はうつくしいと」 長田弘
うつくしいものの話をしよう。
いつからだろう。ふと気がつくと、
うつくしいということばを、ためらわず
口にすることを、誰もしなくなった。
そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。
うつくしいものをうつくしいと言おう。
風の匂いはうつくしいと。渓谷の
石を伝わってゆく流れはうつくしいと。
午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。
遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。
きらめく川辺の光りはうつくしいと。
おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。
行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。
花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。
雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。
太い枝を空いっぱいにひろげる
晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。
冬がくるまえの、曇り日の、
南天の、小さな朱い実はうつくしいと。
コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。
過ぎてゆく季節はうつくしいと。
きれいに老いてゆく人の姿はうつくしいと。
一体、ニュースとよばれる日々の破片が、
わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。
あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。
うつくしいものをうつくしいと言おう。
幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。
シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。
何ひとつ永遠なんてなく、いつか
すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。
――――― 「世界はうつくしいと」 長田 弘(おさだ ひろし)
上の詩は、
友達の友達から友達へそして私へ贈ってもらった
コトバのプレゼント。(ありがとうございます!)
長田弘さんの詩「世界はうつくしいと」。
大震災の渦中にいらっしゃる人々も、いつか
「うつくしいものをうつくしいと言える」時 が
来ること。
それはきっとこころのふっこうへの
一歩になるのだろうな…と
この詩を読んでそう思わずにはいられませんでした。
「世界はうつくしいと」言おう。
それは私にとって
「日々是好日」
と同じきもち、であるような気がします。
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コメント
美しい詩ですね。
声に出して読んでいるとじわっと涙が出て来ました。
明日、本屋さんに詩集を買いに求めに行きます。
ステキな詩集を紹介して下さりありがとうございます
投稿: Hanako | 2011年4月17日 (日) 01時29分
Hanakoさま
ほんとうにうつくしい詩です。
毎日こそ、わたしたちの価値。
うつくしいものを
みつける目と心
うつくしいものをうつくしいと言う
それだけで
世界が変わるかもしれない
魔法の言葉かもしれませんね。
投稿: 好日居 | 2011年4月17日 (日) 09時13分